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この1週間の胃痛の原因

1週間前のこと。
中国新聞の「地域」島根欄のこの記事を読んで、
胃袋がキューッとなった。

空腹だったからではない。
(…たぶん。)

記事には見出しに「まちおこし発信17年で幕」とあった。
それも「取材・編集担当の職員を雇えなくなるため」と。

私はかつて、その職員だった。
財団法人邑智郡広域振興財団。
邑智郡とかいて「おおちぐん」と読む。
そこで地域振興の手伝いをするのが私の業務だった。
15年以上も前の話だ。
記事にあった「まちおこし通信」の作成に携わっていた。

広島市で生まれ育ち、
海外放浪の果て、
香木の森の農村体験研修生としてで住み着いたおおちぐん

研修期間を終えたあと、この財団に就職させてもらった。
私に出来ることはなんだろう?と考えた。
私を雇用してくれた財団は、
私に何ができるから雇ってくれたんだろう?と。

財団はなにも期待していなかったかもしれない。
二十代の小娘だ。
即戦力になんぞなりゃせん。
まぁ、香木の森の研修生を雇用したら、
話題になってPRになるから…なんて思いもあったのかもしれない。
でも、まだまだおケツの青かった私は、
「元研修生」と呼ばれるだけではいかん!と張り切った。


香木の森研修生時代。
テレビや新聞に自分たちが取りあげられた。
自分たちでない自分たちが報道されることに恐れをなした。
自分たちで自分たちのことを知ってもらいたいと思った。
そこで「新聞」を作った。
小学生がつくる「学級新聞」のようなものだ。
それを研修生からの「通信」として、
広報誌にまぜて配布してもらった。

そしたら町の方々との会話のきっかけになった。

これだ!と思った。
雇用してくれた財団でも、これをしよう!と。

予算をつけてもらって、
「学級通信」に毛がはえたような「かわら版」を作った。

地域のイベントにでかけ、
暮らしている方々の話をきき、
一緒にお酒をのみ、
友達になって、
その会話が原稿になった。

そうやって発行した「かわら版」は、
住んでいる方々だけではなく、
都市部で生活する出身者にも喜んでいただけた。

もちろん、賛否両論あった。
「読みにくい」とか「予算の無駄だ」とか。
それでも、そうやってクレームをくださるってことは、
一秒でもその人とつながっていられるってこと。
こちらが何もしていなかったら、
存在すら認識しあえていない誰かと。

当時、一緒に机を並べていた町職員さんの発想で、
「イベント情報FAX」も週一回発行するようになった。
宛先はテレビ局・ラジオ局・新聞社・タウン誌…。
毎週毎週送りつけていると、
重宝してもらえるようになった。
なにかあったら取材してもらえるようになった。
なにもなくても「ネタがない?」と声をかけてもらえるようになった。

そうやっておおちぐんがテレビや雑誌に紹介された。
それを暮らしている人々が話題にされていた。
嬉しかった。

ラジオの「週末情報」でおおちぐんの名前が流れた。
先週も流れた。
今週も流れた。
きっと来週も。
いつも聞き流している誰かが、
なにかで「おおちぐん」をみたとき、
「あ、ここ、知ってるよ」と言ってもらえるかもしれない。
そう思うとわくわくした。

財団は私を育ててくれた。

4年勤務した。
退職して「ライター」を名乗り、
おおちぐんに住居をおいたまま、あちこちふらふらした。
でも、帰ってくる場所はおおちぐんだった。
…んな「かっこええこと」を言いながら、
結婚を機にあっさりとおおちぐんから離れた。
女ごころってそんなもの。
でも、好きな男の女房になったものの、
ホームシックにもなった。
そんなとき支えてくれたのは
おおちぐんの記事だった。

私が退職したあと、しばらく「後任」はおかれなかった。
その辺も大人の事情があったのだろう。
今の「担当さん」は、私の引き継ぎもなにもなく、
ぽーん!と投げ出された仕事の前に、
ぽーん!と放り出されたところから、
「ふるさと通信」や「FAX情報」を再生させた。

私への遠慮やプレッシャーがあったかもしれない。
(…なかったかもしれない。)
一から立ち上げるより遥かに気力も労力もいったに違いない。

新生「ふるさと通信」や「FAX情報」は担当さんカラー満載で、
ありきたりの取材文だけではなく、
ぷっと笑える自虐ネタがちりばめられていたり、
おおちぐんで生まれ育ったからこそ語れる話があったり。
そんな担当さんが発信してくれるおおちぐんの話に、
私は励まされ、そしておおちぐんを身近に感じられていた。

だから、
夫を説得しておおちぐんの隣に越してこられた。
実際、引っ越してくる際には、
担当さんが動いてくれた。

とても心強かった。
おおちぐんが嬉しかった。

今も、変わらず、担当さんからの情報が届く。
それを見て、年に数回だが家族で遊びに帰る。
友達を連れて遊びに帰る。
家族や友達におおちぐんを自慢したくて。

だが。

その情報を与えてくれていたふるさと通信が廃刊になる。
これからはどうやって日時や場所を知ればいいんだろう?
県内外の公共施設や報道機関に
毎週送信している「FAX情報」も廃止されるという。
これからはどうやっておおちぐんの情報を手にすればいいんだろう?
担当さんはおおちぐんの隅から隅まで熟知したおおちぐん辞典のような人だ。
事務局は彼女を手放してどんな利益を得るつもりなのだろう?





財団法人邑智郡広域振興財団。
電話で名乗るときに舌をかみそうだった職場。
かつて、その財団を設立するのに奔走した方々は、
どんな気持ちを抱いておいでだろう。

私は設立にはかかわっていない。
設立された財団に「拾って」もらったにすぎない。
それでも、悔しくて、哀しくて、腹立たしくて、たまらない。


財政難だ?
人を雇えない?
だから来年度の事業は人件費をけずって助成金だけにする?
じゃ、その助成事業、どうやって周知させるん?
理事さん、教えて。
局長さん、あなた、ツイッターでもするんですか?
それとも、facebookですか?



私が芥川賞をとったら…。
え?
とってから言え?
いや、とってしまったら「とったら」なんて仮定の話はできないから、今、いっとかなきゃ。

芥川賞をとったら…。
その作品がおおちぐんが舞台で…。
朝ドラになって…
映画化になって…。

そうなったら担当さんを主演女優に抜擢だ。
今回の決定をくだしたエライ人たちは、
エキストラにも使ってあげないぞ。

もう謝ったって遅いからね。
絶対にエキストラ器用しないからね。
覆水盆に返らず。
こぼれたミルクもそのまんま。

さ~て。
エライさんたちを後悔させるためにも、
芥川賞とらなきゃね。
by a-kik | 2011-02-22 14:15

芥川賞最年『長』受賞に挑む柿(52になったよ)の日常。なんだかんだ走ってます。


by a-kik